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Paypalの成功を支えた紹介プログラム

清水大輔

PayPalのリファラルプログラムは、インターネット黎明期における画期的なマーケティング戦略として知られています。2000年代初頭、オンライン決済市場が未だ発展途上だった時期に、PayPalは急速な成長を遂げるためにこのプログラムを導入しました。

当時、従来の広告手法は高コストで効果が限定的でした。そこでPayPalの創業チームは、ユーザー紹介に対して現金報酬を提供するという斬新な方法を編み出しました。

 

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1. PayPalリファラルプログラムの特徴

1-1. 双方向の報酬システム

PayPalのリファラルプログラムが成功を収めた主な要因の一つは、その双方向の報酬システムにあります。このシステムは、紹介する側(紹介者)と紹介される側(被紹介者)の双方にメリットをもたらすことで、社会的なリスクを軽減し、紹介行動を促進しました。

具体的には、新規アカウントを開設したユーザーに20ドルを提供し、さらに友人を紹介した既存ユーザーにも20ドルを付与するという仕組みです。この双方向の報酬システムにより、既存ユーザーは積極的に友人や家族にPayPalを紹介するようになり、新規ユーザーも金銭的インセンティブによって容易にサービスを試すことができました。

ユーザーは友人を紹介することで自分も報酬を得られるだけでなく、紹介された友人にも同等の利益をもたらすことができるため、利己的な印象を与えることなく積極的に紹介を行うことができました。

 

1-2. 現金報酬の選択理由

また、PayPalが現金を報酬として選択したことも、プログラムの成功に大きく寄与しました。オンライン決済サービスを提供する企業として、現金報酬はPayPalの本質的な価値提案と完全に一致していました。

ユーザーは報酬として受け取った現金をすぐにPayPalのシステム内で使用したり、銀行口座に引き出したりすることができ、これによってサービスの実用性と信頼性を直接体験することができました。

 

1-3. 参加の容易さ

新規ユーザーはメールアドレスとクレジットカード情報の登録という簡単なプロセスだけで、プログラムに参加し報酬を受け取ることができました。

この簡素な登録手順により、潜在的なユーザーがサービスを試してみる心理的ハードルを大きく下げることに成功しました。結果として、多くの人々が気軽にPayPalを利用し始め、これがプログラムの急速な普及と成長につながりました。

 

2. プログラムの結果と影響

2-1. 7-10%の日次成長率の達成

PayPalのリファラルプログラムは、驚異的な成長率を実現しました。
最盛期には1日あたり7-10%という驚異的な成長率を記録し、これはインターネット企業の歴史の中でも類を見ない急成長でした。

2-2. 6ヶ月で100万から500万ユーザーへの拡大

この成長率の具体的な表れとして、わずか6ヶ月という短期間で、ユーザー数が100万人から500万人へと5倍に膨れ上がりました。2000年3月に100万ユーザーだったものが、同年9月には500万ユーザーに達したのです。

 

2-3. eBayによる15億ドルでの買収

この急激な成長は、PayPalの企業価値を大きく押し上げました。ウォールストリートジャーナルは、この成長を受けてPayPalの企業価値を5億ドルと評価しました。そして最終的に、この成長と評価の高まりは、2002年にeBayによる15億ドルでの買収という形で結実しました。この買収は、PayPalのリファラルプログラムが単なるマーケティング戦略を超えて、企業の核心的な成長エンジンとなったことを如実に示しています。

この成功は、後のIT企業にも大きな影響を与えました。PayPalの創業メンバーたちは後に「PayPalマフィア」と呼ばれ、Tesla、SpaceX、LinkedIn、YouTubeなど、現代のテクノロジー業界を代表する企業の創設に関わっています。

彼らの多くが、PayPalでの経験、特にリファラルプログラムの成功を自身の新たな事業展開に活かしており、シリコンバレーの起業文化に大きな影響を与えました。

 

3. PayPalから学ぶリファラルプログラムの設計

3-1. 社会的リスクへの対応策

PayPalのリファラルプログラムの設計から学ぶべき重要な点の一つは、社会的リスクへの対応策です。人々は一般的に、友人や家族に製品やサービスを推奨することに対して慎重です。これは、自分の評判を損なうことや、利己的に見られることを恐れるためです。

PayPalは双方向の報酬システムを採用することで、この問題を巧みに解決しました。紹介者と被紹介者の両方に報酬を提供することで、紹介行為が単なる自己利益ではなく、友人にも利益をもたらす好意的な行動として認識されるようになりました。

 

3-2. 報酬額の決定プロセス

報酬額の決定プロセスも、プログラムの成功に重要な役割を果たしました。PayPalは当初、紹介者と被紹介者にそれぞれ20ドルを提供していましたが、その後段階的に金額を減らし、最終的には5ドルまで下げました。

興味深いことに、報酬額を下げても紹介率に大きな影響は見られませんでした。これは、ネットワーク効果によりサービスの価値自体が高まっていったためと考えられます。これは、適切な報酬額を見つけるためには継続的な実験と調整が必要であることを示す良い事例だと思います。

 

3-3. 最適な報酬付与タイミングの設定

最適な報酬付与のタイミングの設定も、プログラムの成功に欠かせない要素でした。PayPalは、ユーザーがクレジットカードを登録し、口座認証を完了した時点で報酬を付与しました。

これは、ユーザーがサービスの本質的な価値を理解するタイミングでした。報酬を早すぎるタイミングで付与すると、価値の低いユーザーを多く獲得してしまう危険性があります。一方、遅すぎると、ユーザーの参加意欲が低下してしまいます。だからこそpaypalは、自社サービスへのロイヤルティが上がるタイミングで、報酬を付与したのです。

 

4. 現代のリファラルマーケティングへの応用

4-1. デジタル時代における戦略の調整

デジタル時代におけるリファラルマーケティングは、PayPalの先駆的な取り組みを基盤としつつ、現代のテクノロジーとユーザー行動に合わせて進化しています。ソーシャルメディアやモバイルアプリの普及により、友人紹介のプロセスはより迅速かつシームレスになりました。

例えば、多くの企業が専用のモバイルアプリ内で直接友人を招待できる機能を提供しています。これにより、ユーザーは数タップで友人を招待でき、紹介プロセスの摩擦を大幅に減らすことができます。

 

4-2. ネットワーク効果の活用

ネットワーク効果の活用は、現代のリファラルマーケティングにおいて重要な要素となっています。PayPalの例が示すように、ユーザー基盤が拡大するにつれて、サービス自体の価値も指数関数的に高まります。

現代の多くのプラットフォームビジネスは、この原理を意識的に活用しています。例えば、メッセージングアプリやソーシャルネットワークは、ユーザー数が増えるほどサービスの有用性が高まるため、リファラルプログラムを通じて急速に成長することができます。
さらに、報酬の形態を工夫することで、既存顧客のロイヤリティが上がり、紹介数が増加します。現代のリファラルプログラムでは、報酬の形態も多様化しています。

PayPalが現金を使用したのに対し、現在の企業は自社の製品やサービスに直接関連した報酬を提供することが多くなっています。例えば、クラウドストレージサービスが追加の保存容量を報酬として提供したり、ライドシェアサービスが無料乗車クレジットを提供したりするケースが増えています。

これらの報酬は、ユーザーに直接的な価値を提供すると同時に、サービスの継続的な利用を促進するという点で効果的です。

 

まとめ: 効果的なリファラルマーケティングの鍵

PayPalのリファラルプログラムから学ぶ効果的なリファラルマーケティングの鍵は、ユーザーの心理と行動を深く理解し、社会的リスクを軽減する報酬システムを設計することです。双方向の報酬は特に効果的で、企業の価値と一致しつつユーザーにとって魅力的な報酬を選択することが重要です。

最後に、リファラルプログラムを単なるマーケティング戦略ではなく、製品やサービスの不可欠な一部として捉えることが重要です。PayPalの例が示すように、適切に設計されたリファラルプログラムは、ビジネス全体の成長エンジンとなる可能性があります。

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