2024.09.30 invy事例紹介
【紹介キャンペーン事例】Airbnbの成功を支えた紹介プログラム
2008年、サンフランシスコで誕生したスタートアップ企業Airbnbは、わずか10年余りで世界的な宿泊サービスプラットフォームへと急成長を遂げました。現在、Airbnbは191カ国で1億5000万人以上のゲストが利用する巨大企業となり、マリオット、ヒルトン、ハイアットといった従来のホスピタリティ業界の巨人たちを脅かす存在にまで成長しています。
この驚異的な成長の背後には、革新的なビジネスモデルだけでなく、効果的なマーケティング戦略がありました。その中でも特に注目すべきは、リファラルマーケティングです。
1. 紹介プログラム1.0:成功への第一歩
Airbnbの成長製品マネージャー、グスタフ・アルストロメール氏は、紹介プログラムの重要性について次のように語っています。「米国以外では、Airbnbの知名度はそれほど高くありませんでした。紹介プログラムは、まだAirbnbを知らない潜在顧客にリーチする重要な手段でした。」
最初の紹介プログラム(バージョン1.0)は期待通りの成果を上げられませんでしたが、データ分析により、このプログラムの成功の可能性が明らかになりました。
アルストロメール氏は当時を振り返り、「紹介プログラムは、実際には数百万ドルの収益を生み出していましたが、最大の問題は適切に宣伝されていなかったことでした」と説明しています。
初期のプログラムでは、既に双方向の報酬システムが導入されていました。つまり、紹介者と被紹介者の両方がメリットを得られる仕組みです。しかし、プログラムの存在自体があまり知られていなかったため、その潜在力を十分に発揮できていませんでした。
2. 紹介プログラム2.0:戦略的な再設計
Dropboxのリファラルプログラムの成功は、以下のような重要な要因によって支えられていました
1. ユーザーフレンドリーな機能の実装
新しいプログラムの設計において、チームが最も注力したのは、ユーザーが友人を簡単に紹介できる環境を整えることでした。その一環として、GmailやOutlook、Yahooなどの主要メールサービスから連絡先をインポートできる機能を実装しました。
この機能により、ユーザーは自分のメールアカウントに保存されている連絡先リストから、簡単に友人を選んで招待メールを送れるようになりました。
さらに、紹介ボタンを押した際に、どの連絡先を表示するかについても工夫が施されました。エンジニアリングマネージャーのジミー・タン氏は、「最も頻繁にやり取りする連絡先を特定し、それらを優先的に表示するようにしました。これにより、紹介の転換率を高めることができました」と説明しています。
2. 招待メールのデザイン改善
招待メールのデザインにも多くの工夫が凝らされました。特に注目すべきは、紹介者の写真をメールの中心に配置するという戦略です。タン氏は「紹介者の写真をメールの中心に配置することで、社会的証明を示し、信頼性を高めました」と説明しています。
この戦略には二つの重要な効果がありました。一つは、メールが単なるプロモーションではなく、友人からの個人的な招待であることを強調できた点です。もう一つは、Airbnbを初めて知る人々に対して、実際のユーザーの顔を見せることで、サービスへの信頼感を醸成できた点です。
3. A/Bテストの実施
Airbnbは、招待メールの文面についてA/Bテストを実施しました。このテストでは、自己利益を強調するメッセージと利他的なメッセージのどちらが効果的かを検証しました。
具体的には、「友達を招待して25ドルを獲得しよう」という自己利益を強調するメッセージと、「友達と25ドルのクレジットをシェアしよう」という利他的なメッセージを比較しました。
テストの結果、利他的なメッセージの方が、高いパフォーマンスを示しました。
多くの消費者は、友人を利用して金銭的利益を得ることに抵抗を感じる傾向があります。一方で、友人と何かを共有したり、友人に利益をもたらしたりすることには、より前向きな感情を抱きます。このような心理を理解し、メッセージングに反映させたことが、プログラムの成功につながったと考えられます。
3. プログラムの成果
1. 予約数の増加
新しい紹介プログラムの導入後、Airbnbは300%もの予約と登録の増加を記録しました。
これらの数字は、適切に設計された紹介プログラムがいかに強力な成長エンジンになり得るかを示しています。特に、Airbnbのようなプラットフォームビジネスにおいては、ユーザー数の増加がサービスの価値を直接的に高めるため、このような急激な成長は非常に重要です。
2. 紹介ユーザーの質の高さ
しかし、単に数字が増えただけではありません。紹介で獲得した顧客の質の高さも特筆すべき点です。アルストロメール氏によると、「紹介されたユーザーは、平均的なユーザーよりも多く予約し、ホストになる確率も高く、さらに他のユーザーを紹介する傾向も強かった」とのことです。
これは、紹介プログラムが単なる数字上の成長だけでなく、質の高い、ロイヤルティの高いユーザーベースの構築にも貢献したことを意味します。
4. 継続的な改善と展望
ホスト向けプログラムの導入
Airbnbは、この成功に満足することなく、紹介プログラムの継続的な改善に取り組んでいます。最近では、ゲストだけでなくホスト向けの紹介プログラムも導入しました。
ホスト向けプログラムでは、新しいホストを紹介した既存ホストに対して、現金報酬を提供しています。これは、Airbnbのプラットフォームにとって重要な「供給側」であるホストの数を増やすための戦略です。興味深いのは、ホスト向けプログラムでは、旅行クレジットではなく現金を報酬として選んでいる点です。これは、全てのホストが必ずしも旅行に興味があるわけではないという洞察に基づいています。
日本市場での展開
日本市場においても、Airbnbの紹介プログラムは重要な役割を果たしています。しかし、日本特有の文化や規制に適応する必要がありました。例えば、日本では「おもてなし」の文化が強く、ホストになることへのハードルが高い面があります。
そのため、Airbnbは日本市場向けに、ホストになることのメリットを丁寧に説明するキャンペーンを展開しています。また、日本の民泊新法に対応するため、適切な登録手続きのサポートも提供しています。これらの取り組みにより、日本でも着実にホスト数を増やし、事業を拡大しています。
5. まとめ
Airbnbの事例は、適切に設計された紹介プログラムが、スタートアップの成長にいかに大きな影響を与えうるかを如実に示しています。その成功の鍵は以下の点にあると言えるでしょう:
- データ分析に基づく継続的な改善
- ユーザー心理の深い理解と活用
- 紹介のハードルを下げる技術的な工夫
- 市場や対象に合わせたプログラムのカスタマイズ
日本の企業も、これらの点を参考にしながら、自社の特性や顧客層に合わせた紹介プログラムの構築を検討する価値があるでしょう。重要なのは、単に他社の成功例を真似るのではなく、自社の状況に合わせて適切にカスタマイズすることです。
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