ファンマーケティングとは、企業やその商品・サービスに対する熱狂的なファン(熱烈な支持者)を探し、大切にし、そこを軸とした中長期的な売上・事業価値の向上を図っていく戦略アプローチです。
本記事では、基本的な用語の解説に加えて、ファンを基軸に置きながら実践事例を紹介します。
1.ファンマーケティングとは【意味・定義の説明】
ファンマーケティングとは企業や商品、サービスに対する熱狂的な「ファン」を増やしていくことによって、中長期的な売り上げを目指していくマーケティング手法のことです。
1-1.一般的なファンとは
ファン(英語: fan)とは、特定の人物や事象に対する支持者や愛好者のこと。「熱狂的な」を意味するファナティック(英語: fanatic)の略称です。 古来日本語では贔屓(ひいき、贔負)ともいい、現在では様々な趣味嗜好に合わせて、様々な分野のファンが出現しています。
一番わかりやすいのが、ある人物・作品・アイドルグループなどのファンで、国や地域に関わらず世界全体を巻き込んで爆発的に拡大することもあります。このようにファン発信からブームになり社会現象へと変わっていくことがあります。BTSが一番いい例ではないでしょうか。
1-2.自社ブランドにとってのファンとは
近年で一番わかりやすいファン像を作り上げているブランドといえばAppleです。
毎年行われる発表会で発表される新商品に注目し、発売当日には店頭に行列を作り、新商品についての意見を交わすファンの方々は皆さんの周りにいるのではないでしょうか? Apple商品自体は、競合他社と比べても安い訳でもなく、品質も格段に良い訳でもないのに、ファンの方々は新商品を買われています。 簡単には他の商品・サービスに目移りすることがないような行動が特徴的といえます。
そのような行動を取る背景は何でしょうか。 我々は単なる商品に対する愛着だけでなく、ブランド(企業・ひいては創業者)の価値観や想いへの共感がとても深い繋がりがあるように見受けします。 ファンというのは、そういった関係性を持っている人々のことを指すのではないかと私たちは考えます。
2.ファンマーケティングが会社に注目されている背景
新規顧客獲得が年々難しくなっています。今までの様に広告費を出せば新規顧客を獲得出来るという簡単な話ではなくなってきており、事業という観点からもマネジメント層含めてどうすべきか解説します。
2-1.日本国民の人口減・少子高齢化、円安・インバウンド需要
現在の日本は、人口が急激に減っています。その上、少子高齢化が進み、単身世帯も増えています。
ターゲットとなる日本人の母数が減っているため、新規顧客獲得の難易度が上がっています。 そのため新たに開発した商品・サービスを展開したい企業側にとっては、既存顧客からの広がりを期待しており、解決策としてファンマーケティングが注目されています。
一方で今後は、コロナもひと段落したことに加え、近年の円安からみると、海外からの移住者や留学生などは増えることが想定されます。 様々な文化が広がってくることが想定されるため、よりクラスターを意識したマーケティングが必要になります。
2-2.各世代やクラスターによる感情表現・コミュニケーション感覚の多様化
世代によって利用するSNSも異なり、その利用方法も異なります。情報の共有・発信の仕方も長尺の動画だけでなく、ショート動画や文字、podcastなど様々な形態で表現することが可能になっています。
そんな中、SNSの進化とともに扱い方を学ぶ世代もいれば、生まれながらにして最先端のSNSを利用している世代も存在しています。
例えば、これまでは初めて商品を購入する際やツール導入を検討する際に、googleで口コミから評判をチェックする人は多かったはずです。しかし今では、Instagram/Twitterで情報を調べたり保存したりします。 コミュニケーションツールとして、FacebookメッセンジャーやLINEで行われていたのも、社内ではslackやteams、若年層ではInstagramのDMなど接点の持ち方は多様化しています。
SNSの複雑化により、コミュニケーションをする場所(ツール)も目的によって変わっています。 家族や親友とのコミュニケーションや、企業の所属するチーム内や全体でのコミュニケーション、対外的な仕事としての自分とプライベートの自分などツールやアカウントを使い分けているのが今では一般的です。
だからこそ企業側が発信する情報も上記のような前提を踏まえた上で、考えなければ価値がないと評価されます。 SNSの利用者は常に進化している中で、企業は「ユーザーとのコミュニケーションをどのように活かすか」「ユーザーと共有するブランド価値づくりをどのように進めるか」といった点を考えることが非常に重要になっています。 その結果、今までのようにお金をかけて、認知を広め、口コミやレビューを増やすのではなく、既存顧客へのアプローチを強化して自社のファンを増やすことを重要視する企業が増えているのです。
2-3.情報過多の超成熟市場
現在、あらゆる商品・サービスについて様々なマーケティングが盛んに行われていて、情報が溢れかえっています。結果、消費者は検討プロセスという限られた時間の中で、多くの情報を浴びた上で最適な判断をしなければなりません。生活者のタイプや興味関心に依ってはそれはとても苦痛になってしまいます。
そんな中、企業が商品を押し出して売るために、商品価格を値下げし、キャンペーンを組んで広告出稿しても、消費者にその情報が届きづらく、たとえ届いたとしても心を掴みにくくなってきています。 また、それを各社が取り組んでいるからこそ、広告にかかる費用は上がる一方で、顧客にとっては情報が多く選びにくいという悪循環が生まれてしまいます。結果として企業にとって利益は少なくなっています。
だからこそ従来のような企業主体のマーケティング施策ではなく、視点を消費者側に切り替えた新たなマーケティング施策が必要になっているのです。
3.ファンマーケティングのメリット(事業基盤形成に重要な理由)
引用:https://blog.btrax.com/jp/first-users/
上記画像によると、主要サービスの半数以上が口コミによる初期ユーザ獲得に力を入れています。一般的にファンとなった顧客は自分が好きなブランドを知ってほしいと考え、情報共有するようになります。それがどのような効果を及ぼすのか解説していきます。
3-1安定した継続購入(売上)の基盤ができる
ファンマーケティングの目的は、前述のとおり、企業やその商品・サービスに対する熱狂的なファン(熱烈な支持者)を探し、大切にし、そのファンを軸とした中長期的な売上・事業価値の向上を図っていくことです。
ファンを増やすことが、売上を増やすだけでなく事業収益を効率化するということをしっかり理解したいところです。
それを支えるロジックは下記になります。
・パレートの法則 パレートの法則(別名「2:8の法則」)。「会社の売上げの8割は2割の顧客が生み出している」と考えられているものになります。そのため企業はリピートする2割のファンを大切にする施策を打ち出すことが多いのです。
・1:5の法則 新規顧客獲得には、既存顧客維持の5倍のコストがかかるという法則です。新規顧客は獲得コストが高いにもかかわらず利益率が低いので、新規顧客の獲得以上に、既存顧客の維持が重要であるという考え方になります。
・5:25の法則 顧客離反を5%改善すれば、その利益率は25%改善されるという法則です。中長期的戦略からみれば、顧客維持率・離反率と新規顧客獲得のバランスを充分に考慮したうえで、計画的な施策を実行していくことが重要となります。 |
よく一つ目の法則だけでリピート施策の重要性を訴えている記事を多く拝見しますがそれは表面的な話であって、本来はそこにかかるコストや収益という観点から事業構造の効率化を図るべきなのです。
収益という観点からファンマーケティングは、熱狂的なファンを増やすことで安定的な事業構造づくりに寄与できると言えます。
また商品・サービスの品質や機能の面など他社との差別性を生みにくい成熟市場でも効果が得られる施策の一つです。一般的には成熟市場では競合との競争により商品価格が低下し、利益が縮小する傾向が発生しやすいです。しかしファンが多くいる企業は高価格であってもブランドに対する関係性・信頼があるため、継続購買がうまれることで売上を維持することが可能となります。
ファンは企業にとって安定的な売上と顧客獲得にかかるコストの低減に寄与してくれる大切な存在だということが分かります。
ファンが少ない企業はそもそもブランドの在り方を見直すことで、8割の売上を維持する可能性があるということを理解しておきましょう。
3-2.熱量が高く、良質な「口コミ」で新規顧客獲得
ブランドがユーザーと対話したり、共創する姿勢を示すこと自体が一つの口コミの結果へとつながります。まずはそういうポジティブなサイクルを回すことによって良質な口コミが生まれ、その後新規顧客の獲得へとつながっていきます。
まずはそのサイクルを回すことがとても重要になります。
前項でも紹介している通り、新規顧客獲得と既存顧客維持では、既存顧客維持の方が5倍ほど効率がよいと言われています。できる限り「コストをあまりかけたくない」というマーケティング担当者様がいらっしゃいますが、その場合、売上を大きく伸ばしたいのであれば新規顧客にかけるよりも既存顧客を大事にするほうが効果的です。
そして既存顧客を大事にするからこそ、そこから新規顧客獲得につながる良質な口コミがたくさん生まれてきます。
消費者は有限な時間とお金をできる限り効果的に使いたいと考えます。例えば会社の近くでランチをするにしてもgoogleなどで口コミ評価の高いお店を探すでしょう。ですがもし同僚が最近できた麻婆豆腐のお店について語ってくれたら、その店に行こう思います。このような個人の意思決定に際して、より身近な人の口コミというものが効果的に働き、口コミからの行動へと繋がるのです。
口コミマーケティングとは?を詳しく見る>>
3-3.広告宣伝費の削減
ファンマーケティングがうまく回るようになってくると広告費の低減にも繋がります。
広告費の低減がどのようにして実現できるかというと下記の1~4になります。
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ファンからのリファラル=クチコミ経由で直接訪問し購入する顧客が増えるので全体のCPAが下がる
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ファンによるレビューやクチコミ、CGMによって新規顧客のCVRが上がる(結果CPAが下がる)
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リファラル経由での新規獲得が増えることによって広告出稿費用が下がる
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得られたフィードバックにより商品コミュニケーションを改善することによってCTRやCVR、CPAが改善する
- ファンによる自発的な宣伝で、情報拡散スピードの向上(コスト効率の向上)
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これまでは広告媒体に広告を出稿することで新規顧客の獲得を図ってきたものを、ファンに対して広告コストをスライドして転換することで、ファンを媒介とした新規顧客獲得を推進することでより全体最適により広告費の低減を図ることが可能となります。
3-4.ファンの声を事業改善に活かせる
ファンとなった顧客は、積極的に対話することで良質なフィードバックを得ることが可能となります。ブランドに対する愛着から自身がなぜファンとなったのか、ファンとして気に入っている理由や悪いところなど率直な意見を聞いてみましょう。
ファンとなった顧客は自身が使っている商品・サービスをより良いものにしてほしいという想いから、どこを改善してほしいかということを具体的に教えてくれます。
通常であれば、このような良質なフィードバックは商品・サービスの割引や資金を使って調査することが多いのでコストメリットがある上に、このようなファンを気にかけているという行動を取ることで、ロイヤルティが上がるため、何か告知をした際にファンが自発的に発信を行っていただけます。
3-5.ユーザーニーズの把握がスピーディに
ファンとなる顧客が増えれば増えるほど良くなることの一つにフィードバックから得られるニーズがあります。単にフィードバックをもらうだけでなく、ファンのニーズをくみ取ることが新たなビジネスやサービスを開発するきっかけとなります。
ユーザーニーズを得るための具体的な手法としては、商品やサービスに関して行う定量的な満足度調査やインタビューを通じて新商品の感想を聞くモニターなどが取り組みとして行われます。自社ブランドの商品・サービスの開発や改善に自身の意見が役立っていることや具体的に取り入れられれば、自身がブランドに対して影響を与えた協力者として心理的な優越感を感じてもらう効果も期待できます。
こういった取り組みでよくあるのが「お客様の声から誕生した商品」です。具体的に商品・サービスの改善につなげるだけでなく、ファンの声を活用しているというアピールも自社ブランドの姿勢を広く認知してもらうための施策となります。ファンのニーズをきめ細かく把握していけば、同じようなニーズのある潜在顧客の発見にもつながる効果的な施策なのではないでしょうか。
3-6.カスタマーサポートの機能を果たすコミュニティ
ファンが増えれば増えるほど、SNS上ではファン同士がつながり、情報交換しはじめます。その情報交換をより活性化させるのがコミュニティマーケティングです。
よりブランドに対する愛着が高い熱狂的なファンは主体的に発信を行う傾向にあるので、ファン同士が交流できるコミュニティでは、熱狂的なファンが自発的に他のユーザやファンの悩みを解決するいわばカスタマーサポートの役割を担うケースが発生していきます。
熱狂的なファンが増え、他の既存顧客や新規顧客の疑問点に回答することで、クレームの未然防止やファン同士での課題解決、ロイヤルティの向上につながります。
結果としてファンマーケティングにより、カスタマーサポートの運営コストを抑えることにも繫がります。こういうポジティブなコミュニティがうまれることによって顧客はそのブランドに対する帰属意識や愛着をより感じることになります。言い換えるとコミュニティの存在自体がブランドの価値の一つになるともいえます。
そのようなコミュニティが醸成されるとよりポジティブなフィードバックも生まれるためブランドの質はさらに高まるでしょう。
4.ファンマーケティングを活用する際の注意点/デメリット
ファンマーケティングを実施するにあたってよく懸念されるポイントをご紹介します。
4-1.コミュニティの形成は簡単ではない
ファンマーケティングでファンを増やすのはそう簡単ではありません。そもそも愛着を抱くレベルにブランド形成がされているかというのもありますが、顧客がブランドの価値を認識して、愛着を感じるに至るまでには、それなりに時間が必要となります。
購入頻度や購入回数でファンと認定するのであれば、その行動数を取り、売上貢献するロイヤルカスタマーといえるかもしれません。しかしその顧客はファンとは限りません。「気軽で安価だから購入しやすい」「特に理由はない」「習慣的に使っているだけ」といった理由でリピートされているケースは少なくありません。
この辺ファンの定義は何なのか?については5章で述べるとします。
とにかくファンを集めてコミュニティを醸成するということに対して、成果を急ぐのは禁物です。自社の姿勢を継続的に表現することや顧客のフィードバックを得ること等も顧客のブランドへの愛着に影響を及ぼすことは十分あります。ですのでファン層の形成ができそうかどうかは一定の期間、顧客との対話を続け、既存顧客の特性を理解した上でアプローチをすることを織り込んでおきましょう。
4-2.不適切なことをすると炎上の危険がある
ファンマーケティングは当然ながら顧客とより近い距離感で直接コミュニケーションをとっていく手法であるため、不適切なコミュニケーションは反感を買ってしまうリスクがあります。
コミュニティやコミュニケーションに積極的に参加してくれるファンは、企業からの一方的な情報発信よりも、これからの取り組みや現場のリアルな声だったり、普段は見られない・知りえない情報など「中の人」しか提供できないコンテンツに注目をしやすい傾向にあります。
そのような投稿をする際、意図せず投稿した写真や発言、自身の考え・思想が結果として特定の人たちから反感を買う可能性があります。政治的な側面や性差別などナイーブな問題を取り上げるとそういったリスクはつきものです。
そのため、ファンマーケティングを担当する人には、パブリックリレーションを踏まえた上で発言に対する繊細な気配りが求められます。ファンとの距離感が近くなるとプライベート感が出てきてしまい、周囲に対する気配りをつい忘れてしまいがちです。コミュニケーションの対象が1顧客であることだけでなく、その先にいる世の中があることを忘れないようにしましょう。
そうなる前に重要なのは、炎上してしまった際の対応方法をあらかじめ社内で取り決めしておき、ポリシーを定めておくことが肝要です。
4-3.排他的なファン層には気を付ける
ファンというものは、そのファン歴などから様々なプライドを持っていることが少なくありません。ブランドを長く利用しているファンが、新加入のファンに対して偏見の目をもって接してしまうような関係性がファンコミュニティ内で生まれることがあります。時間という軸が生み出すファンヒエラルキーです。
そういったヒエラルキーが閉鎖的なコミュニティの醸成につながり、ブランド棄損へとつながってしまうリスクも併せ持っています。ファンコミュニティ内でファンが独自につくったルールや文化が形成され、心理的な抵抗感を強めてしまうことで新たなファンが参加しづらくなり、ファンの増加を抑えてしまう可能性はあります。
ファンコミュニティ内でのルールやポリシーなどファン同士の風通しを良くするためにヒエラルキーが形成されにくい仕組みを整えることや新しいファンとの交流機会を定期的に作ることが重要です。あらかじめ新旧のファンとのコミュニケーションを活性化させるようなホスト的役割や交流を図る仕組みを用意することなどちょっとした工夫がとても有効です。
5.ファンマーケティング成功のポイント
ファンマーケティングの成功のポイントを紹介します。
5-1.データによるファンの定義
ファンマーケティングにおける顧客定義はいくつか存在します。自社にとって「ファン」とはどういう人たちでしょうか?
ファンの定義は企業によって異なりますが、企業の世界観、創業者の価値観などに共感し、商品・サービスを多く活用してくれるといった人物像が当てはまります。そこでさらに正確にファンを定義する方法を紹介します。
具体的にファンを定義するには「認知や購入などの行動データ」と「愛着に関連する行動データ」の2つの軸から考えていく必要があります。
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データの詳しい説明 |
計測方法 |
認知や購入などの行動データ |
実際にどれほど売り上げに貢献しているかというデータ |
顧客行動データから分析する数値からある程度把握が可能 |
愛着に関連する行動データ |
企業にどれほどの愛情や信頼があるのかというデータ |
NPSや満足度調査など調査から算出する指標で判断することが可能 |
これらのデータを使い、2つの面から感覚に頼らず定量的に把握して、ファンの定義について考えてみてはいかがでしょうか。
5-2.ターゲット顧客の分類ステージ
ターゲット顧客は、購買行動の度合いによって、下記の6段階のステージに分類することができます。
■認知や購入など顧客行動によって分類されるステージ
ファンマーケティングを実施する狙いは、③から⑥の顧客が増やすことですが、これら全てがファンである可能性もあるわけではないので、これだけを軸とした顧客評価はミスリードを招く可能性があります。
先ほどファン像の参考としてApple社を挙げさせていただきましたが、彼らの特徴を①~⑥の顧客像に重ねてみるとどうでしょうか?
当然ながら、⑤⑥をベース顧客がメインのように感じてしまいますが、③④⑤でもファン層はいそうなのが見えてきそうではないでしょうか。
5-3.ファンの分類
「顧客」は他にいい商品が存在しない間は買い続けてくれますが、他に優れた商品が出れば、気移りしやすいです。
しかし「ファン」の場合は違います。「ファン」は、そのブランド自体を応援してくれているので、新商品や機能アップ、サービスのブラッシュアップに期待しており、一緒にブランドを作っていくような意見や行動が期待できるでしょう。ファンだからと言ってすぐに購入につながるとは限りませんが、売上以外にも宣伝等でプロダクトとしての成長を支えてくれる存在なのです。
そのファンは、サービス・ブランドに対する応援活動によって、下記の6段階のステージに分類することができます。
■ファンの応援行動によって分類されるステージ例
名称 |
顧客の状態 |
①未ファン |
行動なし |
②ライトファン |
直近1年で1回のファン活動がある |
③ミドルファン |
直近1年で▲回以上のファン活動がある |
④コアファン |
直近1年で●回以上のファン活動がある |
⑤離脱ファン |
過去②~④だったが直近1年で活動がない |
※ファン活動は、紹介プログラムや各種コンテンツへの参加状況をベースに設計ができます。
※ほかにもNPSや愛着の度合いを定期アンケート調査して関わりの深さを測る方法もあります。
ファンとの交流やインタビューを通して、常にどの層が多いのか、その要因は何なのかを図るようにしましょう。
5-4.ファンとのタッチポイントの整理
顧客との接触頻度を高めることができれば、その行動データを蓄積することで行動パターンを分析できるようになり、次回の購買時期を予測することも可能になります。結果として、プロモーションの時期や在庫調整など正確にマーケティングの展開が実現できます。
そのためには、顧客のタッチポイントを正確に理解しておく必要があります。タッチポイントとは、企業が提供しているサービス・商品と顧客の接点を指します。タッチポイントにはデジタルとアナログのものがあります。
デジタルタッチポイント |
アナログタッチポイント |
メールマガジン 自社アプリ ECサイト オウンドメディア SNS(LINE・Facebook・Instagram) Web広告 ブログ チャット |
通常の接客業務 店舗の運営 カスタマーサポート 折り込み広告 置き型看板 展示会 ダイレクトメール(DM) 新聞広告 |
中でもSNSが顧客とのタッチポイントとして重要視され始めたのは、ユーザとの距離が近いためです。だからこそSNSでのファンとの接し方が「企業ブランディングの確立」につながります。
またコロナ(COVID-19)の影響も相まって、顧客と接点づくりとしてデジタルでのタッチポイントの重要性が増しています。
一方で、デジタルの顧客接点とは違い、人同士の直接やりとりがあり顧客が触れることができるアナログタッチポイントはブランドにとってサービス品質としてファンを醸成する大きなポイントになってきています。
飲食店のような店舗の運営や、そこで行われるサービスを提供するまでの接客業務もそれにあたります。デジタルが進化するからこそ人は効率的にコミュニケーションを行おうとします。だからこそ、質の高さや感動を与えるコミュニケーションとしてリアル・アナログでの顧客接点はとてもブランドとして評価を受けやすいです。
5-5.ブランドミッションに従いファン継続のための企画設計
当然ながらファンで居続けてもらうためには、ファンである顧客を楽しませ、ワクワクさせるような企画を行い続ける必要があります。しかしながら、それはブランドミッションにつながるものである必要があります。一般的にはその活動をブランドアクティベーションと呼びます。
ブランドアクティベーションは、ブランドの認知度を上げるだけでなく、顧客との長期的な関係性を構築するために行われる活動を指します。ちなみに全米広告主協会によると、アメリカの企業はマーケティング予算のうち、約60%をブランドアクティベーションに投じているそうです。
一般的なブランドアクティベーションには、以下の手法があります。
【1】リレーションシップマーケティング 【2】コンテンツマーケティング 【3】インフルエンサーマーケティング 【4】プロモーショナルマーケティング 【5】エクスペリエンシャルマーケティング 【6】リテイラーマーケティング |
具体的なアプローチは6章でご紹介します。
5-6.KPIの設計
KPIを設計する際に重要なポイントは、SMARTの法則に則り設計することです。これはファンマーケティングに限らずKPI設計で共通で言えます。KPIを活用するメリットの一つが、短い期間で検証と改善を繰り返すことで、最終的にKGIの達成率を高められることにあります。そのため、「認知度」というように、達成度合や進捗の把握に時間がかかる指標もKPIには不適切といえるでしょう。
5-1の2つのデータを使用した定義決めで、KPIも考えてみましょう。定義さえ決めてしまえば、それぞれの顧客ステージについて人数把握はすることは可能です。そしてそこに売り上げを掛ければLTVやARRなど算出も可能になります。
またそれぞれのセグメントに対する割合やステップアップ率・ステップダウン率などその値の変化を追うことで常に最新の状態を把握することが可能です。
それぞれのセグメントで追うべき指標を記載しましたので、参考にしてください。
・顧客単価 顧客が一度の購入時に支払う金額を指します。もしも顧客単価を上げたいと考えるならば、単品売りではなく、まとめ売りやプレミアム商品の販売といった手法の検討が有効です。
・リピート率 一度商品を購入した新規顧客のうち何名がリピート購入をしたのかを測るための指標。対象とする期間(月単位、年単位)によってリピート率は大きく異なるため、比較をする際にはその前提に注意しましょう。
・インプレッション 広告や特定のページが表示された回数を示します。「ユーザーに何回見てもらえたか」を測るための指標となるため、ユーザーの認知を高める段階で活用すべき指標といえます。
・エンゲージメント 顧客ロイヤリティや愛着度を測る際に使われる指標です。ユーザーの行動に関する指標を用いることが多いため、「サイト訪問回数」「キャンペーン応募数」「問い合わせ回数」といった指標が選ばれる傾向にあります。 |
6.ファンマーケティングに効果的な施策
LTVを高めるためには、「ファンとの定期的な接触」が重要です。このことを念頭に置き、次のような取り組みを進めましょう。
6-1.SNSの活用
まず第一にすべきなのは、SNSの活用です。どのSNSを活用すべきなのかはターゲット層がどこかによって変わります。SNSの活用には主に「顧客のニーズを探る」「自社のサービス・商品を広告する」「ブランドの確立」という目的があります。
・顧客課題・ニーズを探る 各種SNSに記載されている口コミや要望等を分析することで、未然にトラブルを防止したり、提供しているプロダクトの改善、顧客の満足度アップにつなげることが可能になります。
・サービス・商品の認知拡大 どれだけ良いサービスを提供していても、顧客に認知されなければ売り上げにつなげる事は出来ません。そのため自社のターゲットに則したSNSを利用して、自社のサービス・商品の認知拡大に努めましょう。
・ブランドイメージの確立 タッチポイントを通じて、企業のブランドイメージを作り上げることができます。ブランドイメージは競合との差別化や、ファン層の獲得による長期的な利益確保に影響しています。
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6-2.ライブ配信(ライブコマース)
引用:https://www.sbpayment.jp/support/ec/livecommerce/
ライブコマースとは、Webでの動画配信で商品を紹介し、ECサイトに誘導する販売手法です。
ライブコマースの場合はファンと対話をよりリアルタイムでやりとりができることが特徴です。通販番組だと、制作側があらかじめ考えた説明しかできませんが、ライブコマースだと、視聴者からリアルタイムで疑問に思ったことに対して対応することが可能です。
着心地やサイズやディテールの作りなど、リアルタイムで送られてくる視聴者からの質問に答えることで視聴者が商品理解を深められるため、購買意欲を掻き立てることが可能です。
顧客理解を的確にしたコンテンツづくりがポイントであるため、なかなか企画設計が難しいですが強力な施策です。ファンのライフイベント(卒業・入学シーズン、長期休暇、年末年始のタイミングなど)を捉えたコンテンツを配信することができれば、顧客のLTVを高めるだけでなく、より愛されるブランドへと成長する貴重なチャンスとなります。
6-3.コンセプトストア
引用:スターバックス公式サイト
コンセプトストアとは、企業の主張したい事柄を一つのコンセプトにまとめ、それを反映した店舗のことです。スターバックスは江戸時代の面影を残すようなコンセプトストアを建てています。。店頭でのコミュニケーションはファンにとって貴重な機会になるため、ターゲット層に応じた店舗空間を構築したり、接客コミュニケーションやイベントを用意することでより愛着を高めましょう。
このあたりの施策は、twiceやBTSなど韓流アイドルのファンイベントがとても参考になります。
ショップでの限定商材だけでなく陳列方法やPOP、販売スタッフによる接客コミュニケーションなどでスペシャルな工夫が必要となります。そういったリアルでのコミュニケーションがきっかけとして、SNSへの拡散・発信が行われることで直接的な店舗での売り上げだけでなく、ファンの愛着を醸成させるコミュニケーションがビジネスをさらに発展させる手助けとなります。
まずは、ファンになっている人に向けて行う企画を念頭に置いて考えてみましょう。
例えばワクワクさせるような企画として代表的なものは、そのコンセプトストアのみの限定商品や新商品の販売、非売品を先着数名にプレゼントというだけでも心を惹くことは間違いありません。
6-4.ファンミーティング
ファンミーティングとは、企業と顧客が交流するための場を提供する手法です。ファンミーティングという名のとおり、参加できるのは特定の顧客のみに限られており、招待制になっていることも少なくありません。ファンにとって特別な機会であり、自身が企業から優遇されていることを実感する場ともいえます。
よくイメージがしやすいのがK-POPアイドルが実施するものです。新しい楽曲を披露する際、ミニライブに加えて、ファンとの交流を図るために質問コーナーやクイズ大会、ゲーム、お料理などの多様なコンテンツが用意されています。
普段は顔が見えない従業員と顧客が直接交流できることが、ファンミーティングの大きなポイントです。顧客はそこで商品やサービスに対する感想や意見・要望などを伝えることができます。また企業側からファンに対して、感謝の気持ちを伝える場としても有効です。
どんなに熱狂的なファンであっても、新しい情報や体験などコンテンツが少なければ忘れますし、飽きてしまいます。そのためにも絶えず新たな企画・限定商品を打ち出したり、特別感のあるイベントを通じてコミュニケーションすることでLTV向上を目指すうえでの最重要課題といえます。
6-5.クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、「群衆(クラウド)」と「資金調達(ファンディング)」を組み合わせた造語で、「Webを通じて接点を持った不特定多数の人々から資金調達する」施策です。
一般的な資金調達といえば、金融機関からの借入や関係者・VC・エンジェル投資家などからの出資があげられます。クラウドファンディングはそういった資金調達とは違い、ブランドづくりをしている起業家がその想いや意味などを表現し発信することでそれに共感したクラウドから資金調達を行うことができる手法となります。
クラウドファンディングに特化したWebサービスを利用することでより手軽により拡散性高く情報発信をすることができ、その反応の速さやフィードバックを用いてテストマーケティングに用いることも近年では増えてきています。
「こんなブランドを作りたい」「世の中の問題をこう解決したい」といった発想を発信することで、それに共感し応援したいと思うファンを募ることが可能となります。新しいことに対して、積極的なイノベータ気質がある方を誰でも“支援者”として取り込むことができるのもクラウドファンディング最大の特徴といえます。
6-6.SNSサンプリング
SNSサンプリングは、SNSを通じてターゲットとなる顧客にサンプル商品を送り、実際に使ってもらう手法です。似たようなものにモニタープログラムもありますが、SNSを通じて初期ユーザを募る点が異なります。
実際に商品やサービスを利用してもらい、まず初期ファンづくりを図ります。そしてそこで得られた体験や感覚を通じて、SNSで発信をしてもらうことで、新たなファンを集めることが狙いとなります。
使用後、レビューやSNSへの投稿を呼びかけることで、商品やサービスへの認知度があまり高くない段階において、ファン層を形成するためのきっかけとして効果的です。
6-7.リファラル(紹介)プログラム
リファラルプログラムは、ある商品やサービスを利用したユーザーが親しい人に紹介することでその商品やサービスの価値が波及していくことを狙うマーケティング手法です。愛着度が高いファンであればあるほどそのブランドの良さを熱意をもって人に紹介してくれますし、どんな人にどんなタイミングでどういうふうにそのブランドの体験価値を伝えればいいか答えを知っています。
リファラルプログラムの狙いはもちろん新規顧客を増やすことではありますが、紹介という行動を通じてファンを特定することも可能です。紹介行動を継続的に計測することで、NPSよりも精度が高い施策を回すことが可能となります。
現代は商品・サービスの選択が困難な時代です。企業が機能・性能競争をしているうちに、気付けば市場には似たような商品が満ち溢れ、生活者は違いがわからず、商品選びにストレスを感じるようになってしまいました。
生活者は、商品選びに疲れ果てています。そもそも商品数が多すぎて、いいモノであろうと悪いモノであろうと認知されることさえままなりません。
現在必要になっているのは、口コミマーケティングというよりもよりリアルなファンによるサポートです。「やらせレビュー」や「ステルスマーケティング」等のような信用できないつながりではなく、ファンによる自発的な支援を誘発するリファラルプログラムがとても効果を生む時代に突入しています。
消費者が求めるのは、信用できる人からの信用できる情報といえます。
リファラルマーケティングとは?を詳しく見る>>
7.ファンマーケティングの成功事例
7-1.ヤッホーブルーイング
画像引用元:https://yohobrewing.com/
クラフトビールの製造・販売を行っているヤッホーブルーイングは、「ビールに味を! 人生に幸せを!」というコンセプトのもと、マーケティング施策をファンマーケティング一本に絞っている珍しい会社です。 ロイヤルティの高いファンをターゲットにしたイベント企画や、自社レストランサービス「YONA YONA BEER WORKS」を展開しています。また自社サイト、自社SNSなどを通じた「よなよなエール」など自社商品に関する情報発信も欠かさず行っています。
ヤッホーブルーイングがファンマーケティングを徹底するのは、倒産の危機を経験してからです。 クラフトビールはかつて、地ビールと呼ばれブームになりましたが、一過性のもので、売れ行きが悪くなりました。 そこでオンライン通販事業により、口コミから小売店に声がかかり、付随して始めたのがファンイベントでした。
ヤッホーブルーイングは、自社レストラン「よなよなビアワークス」のサービス、自社サイト・公式フェイスブック・公式ツイッターでの情報発信、年間3000名が参加する醸造所見学ツアーや会社のこれからをファンと考える「よなよなこれから会議」を行っています。 コロナ禍の2020年12月には、初の大型オンラインファンイベントには2日間で延べ1万名のファンの方が訪れました。大企業のような広告施策が打てない企業にとっては、ヤッホーブルーイングのファンマーケティングの事例に今後も注目が集まっています。
ヤッホーブルーイングはなぜ勝ち残っているのか?事例を詳しく見る>>
7-2.Snow Peak
画像引用元:https://www.snowpeak.co.jp/experience/
アウトドアやアパレル製品の開発・製造・販売を行うスノーピーク。コロナ禍の巣ごもり需要によって、90年代後半のオートキャンプブーム以来のブームが起き、多数のメディアに取り上げられています。経営危機にの際に実施した「Snow Peak Way」というキャンプイベントを転機に、ファンとのコミュニケーションに注力しています。
「焚火トーク」という自社ユーザーとスタッフが対話を通じて、互いのコミュニケーションを深める企画も実施しました。商品やブランドに対する忖度ない意見を聞いたり、プライベートな会話を通じて、お互いの信頼関係に強い結びつきを作る場になっています。
また、Facebookコミュニティ「Snow Peak コミュニティ」には約1.3万人が参加し、ファンが”野遊びを楽しんでいる様子”を日常的に投稿しています。スタッフとファンが交流するだけでなく、ファン同士によるコミュニケーションの場としても活用されています。
7-3.パタゴニア
パタゴニアは環境にいい(サステナブル)な素材で、機能的な商品を製造・販売しているアウトドアブランドですが、それと同時に環境問題に取り組んでいることで有名です。
同社は自社の売上の1%もの金額を自然環境保護のため、寄付することを1985年に宣言しました。これまでに1億4000万ドル(日本円で約189億円)もの金額を寄付しております。
最初はパタゴニアのデザインや機能性などに惹かれ、製品を購入することが多いが、次第にパタゴニアが提言している取り組みに共感し、ロイヤルティが深まり、ファンとなる場合が多いようです。
このようなファンは製品のフィードバックだけでなく、同社の取り組みについても自身のSNSや発信プラットフォームで、拡散している場合がほとんどです。
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8. まとめ:ファンを育てるには腰を据えた取り組みが必要。クイックに始められる施策からスタートしましょう
LTVが高く、新規顧客を連れてきてくれて、フィードバックをしてくれる顧客。そのような「ファン=本当に熱狂的な顧客」を生み出せるかは、企業がどれだけ顧客に向き合っているかにかかっています。つまりファンマーケティングとは単なる表面的な施策ではなく、これからの集客を考える上である意味根本に置くべき考え方なのです。
とはいえファンミーティングやイベントの開催には、一定の腰を据えた取り組みが必要になります。
まずは自社の顧客が自社商品をそもそも推奨・紹介(リファラル)してくれているかを計測してみましょう。もし全く紹介が起こらないのならば、そもそものブランドや商品自体の改善が必要になります。
自社商品がどの段階からファンマーケティングをスタートすべきなのか、認識するところがスタートになります。
もしファンマーケティング開始の第一歩としてリファラルマーケティングをご検討される場合、リファラルマーケティングご支援サービスinvy(インビー)にお気軽にご相談ください。
もし「そもそも、リファラルって何?」という方は、「リファラルマーケティングとは? 30の成功ポイントと13の成功事例」の記事も併せてご覧ください。
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